彼と私のお伽噺
「昴生さん、私、もう子どもじゃないです。社会人になって収入だってあるし、昴生さんがアメリカに異動になったってひとりで──……」
「咲凛。お前、五年前の俺との約束忘れたか? 教育費と衣食住の面倒見てやる代わりに一生俺に奉仕する、って」
黒褐色の瞳を細めた昴生さんが、私の言葉を遮る。
怒っているようにも、意地悪く微笑んでいるようにも見える彼の顔を見つめ返しながら悟った。
結婚は、昴生さんが私を従えるための手段だ。彼は私に、一切の拒否権を与えるつもりがない。
「言ったよな。お前は俺のものだ、って」
ニヤリと口元に笑みを浮かべる彼の言葉に小さく震える。その言い方が、まるで恋人を溺愛する彼氏みたいだ。
ただ、念のためもう一度主張しておくが、昴生さんと私の関係は恋人ではない。
言うなれば、オレ様王子と下僕。
これまでも、そしてきっとこれからも、その関係が変わることはない。少なくとも私は今この瞬間まで、そう思っていた。