彼と私のお伽噺

 もしかして妃香さんは、これから昴生さんと会うつもりなんじゃ……。

 昴生さんは兄の優生さんとご飯を食べてくると言っていたけど、あれは私を欺くための嘘かもしれない。

 昴生さんのことを疑いたくはない。だけど、スマホに届いていた妃香さんからのメッセージのことを考えると、何を信じていいのかわからなくなる。

 不安と焦りで、心臓がドクドクと鳴っていた。

 このまま、何もなかったみたいに家には帰れない。

 妃香さんがこれからどこへ向かうのか。誰と会うのか。

 それを確かめたくて、こっそりと彼女のあとを追った。

 スマホを片手に歩いて行く妃香さんが入って行ったのは、オフィス街の中にあるお洒落でこじんまりとしたカフェだった。

 コーヒーが美味しいのだが少しだけ値段が高く、さらに店の向かいに有名なコーヒーチェーン店があるため、いつも比較的空いている。座って誰かとゆっくり話したいときにはピッタリな店だ。

 店の入り口からそっと中を覗くと、妃香さんは案内されたテーブル席にひとりで座ってメニューを見ていた。

 まだ、待ち合わせの相手は来ていないらしい。

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