彼と私のお伽噺
頭まで湯船に潜ると、ブクブクと息を吐く。
不安な気持ちを掻き消すように、いつもより強めの力で髪や身体を洗ってお風呂から出ると、少しだけ気分がすっきりした。
今夜は余計なことは考えずにこのまま寝てしまおう。
シワひとつない真っ白なシーツがセットしてあるベッドに潜り込む。
ベッドサイドの電気だけを灯してぼんやりしていると、カバンの中に入れたままにしていたスマホが鳴り始めた。マナーモードでカバンに突っ込んでいたスマホが少し遠くで震えている。
九割以上の確率で、電話をかけてきているのは昴生さんだ。それがわかったから、目を閉じてわざと無視した。
しばらくすると着信が途切れ、また数分ほどの間隔を空けて着信が鳴り始める。
少し迷った末にベッドから出てスマホを取りに行くと、私がお風呂に入っている間に昴生さんから何度も電話がかかってきていた。
その合間に『どこにいる?』とか『何かあったのか?』とか、私を心配するようなメッセージが届いている。
うっかりメッセージを全部既読にすると、そのタイミングでまた電話がかかってきた。
出るか出ないか迷っているうちに、着信が途切れてメッセージが送られてくる。
『俺を無視するとはいい度胸だな』
句読点のないその一文から昴生さんが怒っているのが伝わってきて、スマホを握る手に変な汗をかく。