彼と私のお伽噺
「わかった。このまま勘違いしてずっと不貞腐れるくらいなら、もういい」
「別に不貞腐れてなんか……」
「不貞腐れてんだろ。いっちょまえに」
昴生さんが、私の頬をつまんで横に引っ張る。
「お前、この前言ってただろ。渡米したら、両親が昔ウェディングフォトを撮ってたセントラルパークのベセスダテラスに行きたいって」
「はい……」
何の脈絡もなく始まった昴生の話にコクンと頷く。それと、妃香さんと何の関係があるのだろう。
疑問に思っていたら、昴生さんが少し躊躇うように視線を左右に泳がせた。
「それで、どうせだったら、撮れないかなと思ったんだよ」
「何をですか?」
「だから、咲凛の両親が残してたようなウェディングフォト」
意味が分からずぽかんとする私に、昴生さんが少し怒ったような声をぶつけてくる。
「結婚式はしなくても、そういう写真でも残ってれば、将来子どもにそれを見せられるだろ。矢木さんがお前に両親の写真を見せたみたいに。それで、どうやって咲凛に気付かれないように計画をたてようかって考えてたときに、妃香さんのご主人の知り合いがニューヨークでカメラマンやってんの思い出して────……」
「え、妃香さんて既婚者だったんですか!?」
「おい、今の話でそこに突っ込むのかよ」
話を遮って大きな声を出した私に昴生さんが呆れた眼差しを向けてくる。