彼と私のお伽噺
妃香さんが既婚者で、昴生さんが彼女と会った理由がウェディングフォトのカメラマンについての相談だったのだとしたら……。
私はめちゃくちゃ恥ずかしい勘違いをして家出をしてきたことになる。
「そんな……、妃香さんが結婚してたなら早く教えてくださいよ」
「そんなこと話す機会なんてなかっただろ」
「でも、もし知ってたら私……」
「妃香さんに嫉妬して、無断外泊しなかったか?」
「嫉妬とかじゃないです。それに、無断外泊じゃなくて家出です……」
「あ、っそ。どっちでもいいけどな。とにかく、俺はちゃんと事情を話した。それで、そっちは俺になんか言うことないのか?」
「言うこと……」
言うことって、なんだろう。無言で昴生さんの顔を見つめると、彼がじろっと睨んできた。
「いや。あるだろ、言うこと。人の話も聞かずに勝手に俺のこと疑って、心配かけやがって。俺の前で膝ついて謝れ」
「え、膝……」
いそいそとベッドの上で正座して三つ指をつくと、昴生さんが「冗談だよ」と呆れた声でため息を吐く。