冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~
16 奇蹟の石
ティララは、朝食後コブリンの革袋の中をベレトと一緒に確認していた。
エヴァンは奥の寝室で昼食までの仮眠を取っている。魔力の恵与は疲れるらしい。
ティララはエヴァンとベレトと毎日を過ごしてきて、ベレトとふたりきりでも平気になってきた。
しかし、まだ触られたくはない。
ベレトは眠い目を擦りながら、魔宝石図鑑を開きティララに説明をした。
ティララの目を擦ることで現れる吹き出しは、すべてを教えてくれるわけではない。
魔宝石を見たときは、魔宝石の名前とサイズが表示されただけだった。
魔宝石自体にどんな効果があるかは、ティララ自身が調べなければならないのだ。
「こちらの赤い石は温魔石ですね。触るとほんのり温かいです。気持ちが良いので怪我をした魔物が集まる石です。温かいからと長時間握り続けると火傷します」
ベレトから手渡された温魔石をティララは触ってみる。
ほんのりと温かく心地よい。
肩に置いたら、肩こりが良くなりそう。
ティララはそんなことを思う。
「これは、破滅石。エヴァンの瞳は、よくこの石に例えられますね」
紫色の妖しい光を放つ石を持ってベレトが言う。
「これは側に置いておくと、いろいろなものがボロボロになります。布だとか……紙だとか……。直接目で見ないほうが良いですね。インキュバスなどシミができると忌み嫌ってます」
「なんだか、赤外線と紫外線みたい……」
思わずティララは呟いた。
紫の光で劣化が進むといえば紫外線である。
「なんで、こんな石を入れたんだが、ほかの物まで壊れてしまうでしょうに……」
ブツブツと言いながらベレトは石を捨てようとした。
「あ! ベレト。てつのはこってある?」
「鉄ですか? 弾薬箱ならありますよ? ブラウニー、持ってこい!」
「……だんやくばこ……」
唖然としているティララを横目に、ブラウニーが迷惑そうな顔をして弾薬箱を持ってきた。ブラウニーも眠いのだ。
ティララは礼を言おうとして、口を噤んだ。
ブラウニーには礼を言ってはいけないとなにかの本で読んだことがあったのだ。
感謝をしても、その気持ちを直接渡してはいけない。
ブラウニーは、直接礼をされると、機嫌が悪くなり最悪家から離れてしまう。
あとで、クッキーを部屋の隅に隠しておこう。
ベレトにお願いしたらクッキー作ってくれるかな?
できれば自分で作れるようになりたいな。
そう思った瞬間、ブラウニーはガシャンと乱暴に弾薬箱を床に落とし、そそくさと部屋から出て行った。
ベレトが肩をすくめる。
「それでどうするんです?」
「このなかに、はめつせきをいれてみるの。ひかりさえさえぎれば、ほかのもにえいきょうしないと思うんだ」
「そんなものでしょうか?」
ベレトは不可思議そうにティララを見た。
紫外線と理論が同じなら、金属は影響を受けにくいはずだから試してみる意味はあるわよね?
「うーん、じゃ、はめつせきといっしょに、かみをいれておけばわかるよ。きっとかみはボロボロになるよ」
「実験ですか、いいですね。やってみましょう」
ベレトは紙に日付とサインを書いて、破滅石を弾薬箱にしまった。
「だんやくはいったままだけどいいの……?」
「ええ、人から奪ってきただけで必要ないですから」
「……」
サラリと答えるベレトにティララは口を噤んだ。
そして、革袋の中の確認を続ける。
最後に出てきたのは、大きくて不格好な石だった。
三十センチほどあるだろうか。
ゴツゴツとした錆(さび)色で、宝石の類いには見えない。
「これなぁに?」
ティララが首をかしげると、ベレトも首をかしげる。
「なにかの原石でしょうか? 焦げ茶の石と言えば……鉄錆石や呪われた血漿石……」
ティララが念のため目を擦ってみると、長四角の中には【ミラクルストーン:?】と表示された。
この長四角の吹き出しは、場合によって表示されないときもある。
しかし、【?】と表示されたことは今までなかったため、ティララは興味津々になる。
「ミラクルストーン?」
「ああ、そうです! ミラクルストーンもありました! ティララちゃん、よく気がつきましたね」
ベレトは目尻を下げてティララを撫でようとしたが、ティララはさりげなくその手を避け、魔宝石図鑑のミラクルストーンの項目を探す。
「ミラクルストーン……中に聖獣や魔獣が眠る奇蹟の石。めったに手に入らない。彫る者の性質によって、生まれるものが変わる……」
「せっかくだからオリハルコンのタガネを使って彫ってみたらどうでしょう?」
ベレトは微笑んだ。
「そうする! わたし、ここでほってるからベレトはねむりにいってていいよ」
「では、魔宝石図鑑はここに置いていきます。くれぐれも部屋から出ないでくださいね?」
「うん! スラピにいてもらう」
「では、また昼食で」
そう言うとベレトは部屋から出て行った。入れ違いにスラピが部屋に入ってくる。
ティララはコブリンから貰らったオリハルコンの金づちを使い、錆色の石を削りはじめた。
コツコツとこぎみよい音が響く。
さすがオリハルコン製だけあって、六歳のティララでも思い通りに削り取れる。
ティララは段々楽しくなり、夢中でタガネをふるった。