冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~
19 転生幼女のアーマースーツ
そこからはじまったお着替えタイムである。
隣の部屋は、ティララがやってきてからドレスルームに改造され、魔王の私室から直接中に入れるようになっていた。
中には、幼女らしい可愛らしいワンピースから、活動的な物、少し大人びた物までさまざまな服が納められている。
魔王がインキュバス立ちに命じ、金に糸目をつけずに用意させた豪華な物だ。
レプラコーンの作った靴もある。もちろん、先日の物とは違いサイズはぴったりだ。
サキュバスはご機嫌でとっかえひっかえティララに服を押しつける。
小さくて可愛らしいティララは、お洒落が好きなサキュバスたちにとって、ていのいい着せ替え人形なのだ。
「……これでつよくなれる?」
ティララはサキュバスに尋ねた。ただ遊んでいるようにしか見えない。
「ファッションの力を借りれば、人は何倍も強くなれるわ! TPOを考え抜いた服装はある種のアーマースーツよ!! いつ、どこで、誰に、どんな印象を持たせたいか、これが重要なのよ!!」
鼻息荒く力説するサキュバス。
インキュバスはパチンと指を鳴らして、自ら変身した。
誠実そうな牧師の姿である。いつもの軽薄さはみじんも感じられないが、顔はそのままインキュバスだ。
「お嬢様、なにか悩みがあるのであれば私が相談に乗りましょう? 秘密はもちろんお守りします」
穏やかに微笑む姿は無害な牧師そのもので、ティララは感心してしまう。
「中身がインキュバスだと思えない……」
「助けてください。牧師様、突然お腹が……」
声の先を見れば、修道女がナヨナヨと床に座り込んでいる。
「! 大丈夫!?」
ティララは慌てて修道女に近寄ると、ガッと手首を掴(つか)まれた。
そして、修道女はウィンプルを自ら取った。
豊かな金髪が零れ落ち、艶やかにサキュバスが微笑んだ。
「ほら、ダメよ? 見た目に騙されて簡単に心配しちゃ! お姫様、アタシに掴まっちゃったわ!」
サキュバスはそう言うと、嬉しそうにパフンとティララを抱きしめる。
「サキュバスのおなかがいくてもしんぱいするもん!」
ティララが答えれば、サキュバスはギュウギュウとティララを抱きしめた。
豊満な胸に押しつぶされてティララは苦しい。
「はー! 可愛い! 本当に可愛い!! ティララちゃんにはまだ精気なんてないのに、一緒にいるだけで満たされるわー!」
サキュバスはクンクンとティララの匂いを嗅ぐ。
ティララは恥ずかしくてしかたががない。
「っあ、やめてっ、もう!」
「姫さんなんて乳臭いだけだろ?」
インキュバスが言えば、サキュバスが反論する。
「熟女好きにはわからないのよ! この甘くてフレッシュな香りの素晴らしさが! 心まで浄化されるわ!」
「なら、嗅いでみるか」
インキュバスまでティララをクンクンとする。
「や、っもう! ほんと、やだ! やぁだ! ちゃんとしよ? けっきょくわたしはなにをきたらいいの?」
ティララはサキュバスの豊満な胸に埋められたまま尋ねる。
「服は目的に合わせて選ぶんだ。姫さんは、誰にどう思われたい?」
インキュバスが尋ねる。
「パパにすかれたい!」
ティララは即答した。
インキュバスとサキュバスは顔を見合わせた。
「魔王様に? ……これ以上は無理だろ?」
インキュバスが思わず呟く。
ティララはどう見ても魔王から溺愛されている。
魔王の証しである紫ダイヤモンドの付いたティアラを与え、魔王軍四天王のふたりに家庭教師を任せるのだ。
「うそ……パパ、わたし、すきにならない?」
ティララの震える声でサキュバスが慌て、インキュバスを睨みつける。
「ちょ! 馬鹿! なに言ってんのよ!! そんなことないわよ? 大丈夫よ? もっと、もーっと魔王様を虜にしましょうね? 私がサキュバスのプライドを賭けて、お姫様を最高の女にしてあるわ」
「本当?」
「本当よ! 約束するわ!!」
「ありがとう!」
ニッコリと笑うティララに、サキュバスはキュンと胸が高鳴る。
今まで感じたことのない胸の痛みに、サキュバスは動揺した。
そんな……。男にだって心を奪われたことなどなかったのに……。恋とは違うこの胸の高鳴りはなに? もしかして噂の母性本能かしら?
「まずは魔王様の好みの把握ね!」
「好み……」
「魔王様の服装の好みって、よくわからないのよね。私がいくら可愛らしいドレスを着ても、セクシードレスを見せつけても全然反応しないんだもの。つまらない男よ」
「魔王様にお前」
インキュバスが呆れる。
「あーら、アンタだって魔王様、堕とせなかったじゃない? そう考えるとベレトもダメよね。アイツ死体だから性欲ないのかしら」
また話が脱線しかけて、ティララは慌てた。
「じゃあ、けっきょく……」
「まあ、いいわ! いろいろ着せてみせるのが早いわよ!!」
「え!? だって、それできらわれたら」
「そんなことないない! 姫さんがなに着たって喜ぶぜ」
インキュバスが言う。
「そうね! じゃ、これ着せてみない?」
サキュバスが悪乗りする。
「え、ちょっと、これは……」
「ほら、魔族らしいじゃない? それでちょっと強気な感じで」
「お、いいねぇ! これ新鮮で喜びそう!!」
盛り上がるインキュバスとサキュバスに、ティララは不安になりルゥに尋ねる。
「ルゥ、変じゃない?」
「変じゃない!! ママ、可愛い!!」
ブンブンと尻尾を振って喜ぶルゥの姿に、ティララはとりあえず納得した。
なんか、へんな格好な気がするけど……。
でも、魔族の美意識だとこれが可愛いのよね?
恥ずかしいけど、パパに好かれるためなら我慢する!!
ムン、と気合いを入れるティララを見て、サキュバスは満足げに微笑んだ。
「うん! いいわね! これで魔王様をメロメロにしてしまいましょ?」
「メロメロ?」
「『パパ、おきして?』っていうんだぜ?」
「それでも起きなかったら、頬にキスするのよ?」
インキュバスとサキュバスが悪知恵を仕込む
「そんなことしておこられない?」
「怒られないわよ! 一発で目が覚めちゃうわ!」
「さあ、魔王様を起こしてこいよ!」
「がんばるのよー!!」
そう言うと、インキュバスとサキュバスはティララを寝室に送り出した。