冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~
28 けをかるわけにはいかないし
ニャゴ教授はルーペを使って観察する。
「完璧……ニャ……。ほぼ温魔石と変わらないニャ……。オレもやるニャ!!」
金の目をキラキラと輝かせ、もふもふの手にアルコールを拭きかけた。
しかし、しっとりと濡れた毛が気持ち悪くて、思わず毛繕いをしてしまう。
「はニャっ! これじゃ、駄目ニャ!」
「それに、きょうじゅ、もふもふだからもふもふがまざるんじゃない?」
「もふもふかニャ?」
「うん、でもけをかるわけにいかないし……。てぶくろかなぁ……」
ティララは考える。
せっかく綺麗な毛並みのもふもふなのだ。
刈ってしまうのはもったいない。
ティララが言うと、ニャゴ教授はピーンと尾っぽを立てた。
「そうニャ!」
ニャゴ教授はポヨンと肉球を合わせた。
キラキラとした光がニャゴ教授を包み込むと、二メートルの二足歩行の猫は、黒髪の猫耳美少年に変身していた。
部屋の片隅で寝ていたルゥが、ポポンとティララの肩に飛び乗って臨戦態勢を取る。
「! え!? ニャゴきょうじゅ!?」
「これでどうニャ!」
ドヤ顔をするニャゴ教授。
サラサラの前髪の間には、変わらぬ黄金の瞳が輝いていた。
頭の耳が得意げにヒクヒクと動いている。
「かぁぁぁぁっこいい!!」
ティララがはしゃぐと、ニャゴ教授の黒い尻尾が嬉しそうにフヨフヨと揺れた。
「まぁニャ」
へへん、というように鼻を擦り、手を消毒し始めた。
「きょうじゅって……ひとになれるの?」
「なれるニャ。ただ魔力を使って疲れるからめったにならないニャ」
ニャゴ教授は当たり前のように答える。
「いがいにわかかったんだね……」
ティララは少し驚いた。
勝手にお年寄りだと思っていたのだ。
しかし、人型なったニャゴ教授は少年だった。
「見た目はお前にあわせてやったニャ。歳は百五十歳ニャ。若いニャろ?」
「……ひゃくごじっさい……」
ティララは呆然とした。
相変わらず魔族の常識になじめないなぁ。百五十歳って若いんだ?
教授からすれば年齢など些末(さまつ)な話で、気持ちも体もすでにエンチャントベンチに向かっている。
教授はティララと同じ手順で、同じように錬金してみる。
しかし、同じようにはできなかった。
ニャゴ教授は、一度の失敗では諦めず、何度も繰り返した。
錬金術に失敗はつきものだからだ。
計測方法も揃(そろ)え、ティララからガラスペンまで借りた。
それなのに同じにはならない。
さすがに、十回を過ぎたところで音を上げた。
「なんでニャー!! いつもより純度が高くはなったけど、まだティララに負けてるニャ!! 絶対原因はティララにあるニャ!!」
ビシッとニャゴ教授はティララを指さした。
「なにを隠してるニャ! オレから教わるくせに、オレには教えないなんてズルイにゃ!!」
ニャゴニャゴとヒートアップするニャゴ教授を、落ち着かせなければとティララは思った。
ピッチャーに入っていた水をコップに入れ、手渡す。
「きょうじゅ、おちついて、みずでものんで」
ニャゴ教授はコップを受け取り、水を飲む。
そして、その水をマジマジと見た。
「この水、なんニャ?」
「あのピッチャーのみずだよ? まおうじょうのいどみず」
ニャゴ教授はピッチャーの中の水をルーペで見た。
さまざまな魔力が混じっている。微力だが闇の魔力も混じっていた。
そして、自分の手に持つ水をルーペで見た。
「やっぱりニャ……」
ニャゴ教授は自分の弟子をジッと見た。
ティララは小首をかしげる。
「原因はティララだニャ!!」
ニャゴ教授は犯人を見つけた探偵のように、ビシッとティララを指さした。
「なんで? なにもしてないよ? みてたでしょ?」
ティララは意味がわからずに、ワタワタとした。
「手のひらを見せるニャ」
ニャゴ教授に言われるまま、手のひらを見せた。
ニャゴ教授は、ティララの手のひらに、スポイトでピッチャーの水を垂らし『明らかのルーペ』で見た。
ルーペでその水を見ていると、ティララに触れた部分から、微細な魔力が消え、純粋な水になっていく。
「……お前、魔力がないんじゃないニャ。浄化の魔力を持ってるニャ……」
ニャゴ教授は呆然としてティララを見た。
「だって、まおうじょうのまほうじんははんのうしなかったよ?」
「きっと無意識に魔法陣を起動させる闇の魔力を浄化したんニャ……」
「うそ……」
ティララは呆然とした。
「オレも生まれて初めて見たニャ。浄化の魔力の持ち主なんているんだニャ! 錬金術師として最高の力だニャ!!」
猫耳少年姿のニャゴ教授が、ギュッとティララを抱きしめた。いつもの調子で、スリスリとしてくる。フワフワの尻尾も絡みついてくる。
ティララは慣れずにアワアワとする。もふもふのときとは勝手が違って、理由はわからないがドキドキとした。
「にゃ、にゃごきょうじゅ……」
「ニャンだ?」
「……ちょっとはなしてほしいな?」
「なんでニャ? お前、いつももふもふ、もふもふ、抱きついてくるニャニャいか」
「うと、えと、いまね、もふもふじゃない、から……かな?」
「まったく我が儘なやつニャ」
ニャゴ教授は呆れたようにため息を吐くと、パチンと両手を合わせた。するといつものもふもふの教授に戻る。
「これでいいニャ?」
「うん!!」
ティララはもふもふの白い腹毛に、もふんと顔を埋めた。
ニャゴ教授は満足げにティララを両腕と尻尾で抱きしめた。