冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~
31 ごめんなさい
サキュバスとインキュバス、スラピとルゥは、ぎこちない親子に苦笑いをする。
見かねたスラピがティララに体当たりした。
ボヨンとスラピに押される形で、ティララがエヴァンへと飛び込んでくる。
「きゃー! スラピ!?」
驚くティララをエヴァンは両手を広げてキャッチした。
温かく柔らかい重みをズシリと胸に感じる。至福である。
これさえあれば俺はなにもいらない。
エヴァンはギュッとティララを抱きしめ、その首筋に顔を埋めた。
空の暗雲はにわかに立ち去り、星々が雲から顔を出す。
ざわめいていた木々たちは、そよ風に揺られている。
「……パパ?」
ギュッと抱きしめ離さないエヴァンにティララは戸惑った。
「心配したぞ、ティララ」
遅れたことを怒られると思っていたティララは驚いた。
「……わたしのこと、しんぱいしてくれた?」
「ああ、心配した」
エヴァンの小さな一言に、ティララはハッとした。
「パパ、ごめんなさい」
「うむ」
「しんぱいかけてごめんなさい」
「カーバングルがいるからといって、油断してはいけない。ここは恐ろしい魔物の住む城なのだから」
エヴァンが真面目な顔をして説くので、ティララは少し可笑しく思いながらコクリと頷く。
誰がどう考えても、この城でもっとも恐ろしい魔物は、大魔王のエヴァンだからだ。
「笑うな」
エヴァンの小さな声にティララの胸がキュンとなる。
思わず、ギュッとエヴァンの頭を抱きしめた。
ヒンヤリとしたエヴァンの髪がティララの頬をくすぐる。
人を突き放すような冷たく鼻に抜ける香りがする。
パパの匂い。ちょっと怖くてドキドキするけど、大好き。
するとグウとお腹が鳴った。カーッと顔が真っ赤になる。
「お腹がすいたな。さあ、ゆこう」
エヴァンが笑った。
冷血暴君とは思えない天使のような笑顔だった。
ふたりが連れ立ってダイニングルームに入ると、ベレトが小言を言ってくる。
エヴァン無視して当たり前のように席に着き、膝にティララをおろした。
ティララの膝にはルゥがちょこんと座っている。
「最近、遅くなりがちですよ! ほら、早くしないと食事が冷めます。どうせエヴァンが寝坊したんでしょうけど」
ベレトの言い草にエヴァンは否定しない。
ティララが慌てて否定する。
「パパはおきしてたよ! わたしがおそくなっちゃったの!」
そういえば、ベレトはトロリと甘い目をティララに向けた。
「ティララちゃんが遅くなっちゃたんですか。しかたがないでしゅね。最近、ティララちゃんはとっても楽しそうですから」
「うん」
「ルゥのおかげですね」
ベレトが言うと、ルゥが威張るように胸を張った。
「今日はなにをして遅くなった」
エヴァンが問う。
「キキョウのさいてるはやしをさんぽしてね、そのさきのおかでおひるねしたの」
「あそこは月夜に行っても美しいですからね。昼間はとても綺麗でしょう」
「何度も行ったことがあるが、ただの丘だぞ。あそこは綺麗なのか」
エヴァンは不可解そうにふたりを見る。
ティララとベレトは顔を見合わせて笑った。
「とってもきれいよ。こんどいっしょにいこう? パパ」
「夕暮れピクニックもいいかもしれませんね、エヴァン」
ベレトの言葉にエヴァンは頷いた。
「そうだな。ティララと一緒に行けば、きっとその丘も美しいのだろう」
トロリと甘い視線をティララに向けて、エヴァンは幸せなピクニックを想像した。
ティララは小さく笑う。
冷血帝王がピクニックなんて、勇者が聞いたらショックでひっくり返りそう。でも。
「わたしもパパといけたらうれしいな」
ティララは心からそう思う。
あの風の澄み渡る木の下で、ニャゴ教授と過ごしたように一緒に寝転がれたらきっと気持ちがいいだろう。
エヴァンの紫の髪が夕焼けに溶ける姿を想像する。
「きっとパパ、すごくきれいよ」
ティララのため息交じりの声に、エヴァンはウッと言葉を詰まらせ、愛娘の頭を味わうようになで回した。