冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~

37 もう嘘は吐くな


「とりあえず、クッキー食ってみろよ」

 トレイからクッキーを受け取る。ココア味なのだろう。
 まるで黒猫で、ニャゴ教授のようだ。
 押しつけられた大きすぎるクッキーを半分に割る。
 すると中から、一枚の布が現れた。

『もう嘘は吐くな。オレを呼べ。迎えに行く』

 ぶっきらぼうに書かれた文字。最後に押された肉球のあと。

 ニャゴ教授だ!!

 ティララは慌てて布を隠した。
 しかし、唇は綻んでしまう。
 にやけた顔を誤魔化すために、パキリと噛んだクッキーは、ほろ苦いココア味だった。

 ニャゴ教授、私の嘘、お見通しだったんだ。

 インキュバスとサキュバスは、ニヤニヤと笑った。

「男にこんなこと言わせるなんて、姫さんもすみにはおけないな」

「で、なにがあったのかそろそろ聞いてもいいかしら? 姫様が泣いてると城中陰気くさくていけないわ」

 ティララはギュッと布を握り込み、困って視線を逸らした。

「ていっても? 俺たち人の気持ちなんて考えないからさ」

 インキュバスはそういうと、ティララの顔をのぞき込んだ。

「錬金術はもういいのか?」

 真面目な声だった。
 ティララは息を呑む。
 いつもふざけてばかりのインキュバスの、真摯な瞳に驚いて言葉を失った。

「すっごく、楽しそうだったのにぃ」

 サキュバスが残念がって言う。

「知ってたの……」

「あのクッキー、普通じゃねーもん。ただのお料理だとはベレトだって思ってないと思うぜ?」

「魔王様は、ねぇ? 魔力が強大だから気がつかなかったかもだけど」

「れんきんじゅつでつくってないよ?」

「でも、アレは錬金術師が作ったものだ」

 自分が錬金術師だと言われているようで、ティララは不思議な気持ちになる。

「でもパパ、れんきんじゅつ、きらいだから」

「そんなの関係ないじゃなーい! 人の好き嫌いなんて、他人が口出すもんじゃないわ」

「姫さんは錬金術がしたい。魔王様は錬金術が嫌い。おたがい錬金術の話さえしなきゃいいじゃねーの?」

「でも、パパ、れんきんじゅつし、きらい。わたしのこともきらいになるかも」

 ティララがシュンとする。

「パパにきらわれたくないの」

 インキュバスとサキュバスは胸を打ち抜かれた。

「はぁぁぁ? 魔王様、こーんなに可愛い子を悩ますなんて罪が深いわ!!」

「マジ、鬼畜。冷血、暴君!」

「でもね、姫様がお願いしたら聞いてくれると思うのよ?」

「お願い?」

「そう、姫様、お願いしてみた? 錬金術を習いたいんだって」

「いちど、はなしたとき、だめ、っていったから」

「一度で諦めるんだ? まぁ、それじゃその程度ってことか。この男も可哀想だな」

 インキュバスに笑われて、ティララはハッとした。

 ううん。そんなことない。ニャゴ教授と一緒にいたい。
 そして、もっと勉強したい。パパに嫌われるのは怖いけど……。
 パパに嫌われても生きていくためには、絶対必要だもん!

「ちがう。でもめいわくかけるから」

「迷惑だと思ってたら、俺たちにこんなクッキー託さないぜ? つーか、男なら好きな女には迷惑かけられたいもんだぜ?」

「ほんと、命知らずよね。アタシ、そういう男は好きよ?」

 インキュバスとサキュバスが笑う。

「めいわくかけて、いいのかな」

「命がけのクッキー無駄にされるよりいいんじゃねーの」

 インキュバスの言葉を聞いて、ティララの瞳が強く輝いた。

「もういちどパパにおねがいしてみる! ゆるしてくれるかな?」

「許してもらう必要ないじゃない? 姫様は王女なんだから! わからず屋な男なんてねじ伏せておしまいなさい。それだけの力を姫様は持ってるわ!」

 サキュバスが笑う。

「おしろからおいだされても、ともだちでいてくれる?」

 ティララが尋ねる。インキュバスとサキュバスはギュッとティララを抱きしめた。

「あったりまえじゃない」

「まかせておけって! 最悪俺たちと一緒に人族の町で暮らそうぜ! 一流のサキュバスに育ててやるからさ」

 ティララはプッと笑った。
 サキュバスはサキュバスに生まれるのだ。
 努力でなるようなものではない。

 でも、励ましてくれていることはわかった。

「ルゥも! ルゥも!!」

 ルゥが言えば、スラピもピーと鳴く。

「絶対そんなことにはならないけどね」

 サキュバスがバチンとウインクをした。

 ティララは立ち上がる。

 みんなと一緒ならなんとかなりそうな気がする!
 だから、諦めるのはまだ早い!
 最後まで自分のために頑張る!!

「サキュバス、わたしをいちばんつよいふくでかわいくして! きょうのよる、パパにおねがいする!!」

 フンスと気合いを入れれば、サキュバスたちは盛り上がる。

 目元の腫れが目立たなくなるように、魔法をかけて化粧を施した。
 可愛らしい服を厳選し、綺麗に飾り付けた。そして、おねだりテクニックを仕込む。

 ティララは真面目に指導を受けた。


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