冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~
41 探求者よ
ティララはルゥを肩に乗せ『魔道具の墓場』に来ていた。
一週間はここに籠もることを宣言し、食事もここで取ることに決めた。
ここにはオーブンも暖炉もある。簡単な食事には困らない。
すでに、ガタゴトと中から音が鳴っている。
きっとニャゴ教授が作業を始めているのだろう。
「おそくなってごめんなさい!」
ティララが言えば、埃まみれになったニャゴ教授が振り向いて笑った。
「よく寝たかニャ?」
「はい!」
「ならいい」
「きょうじゅはなにをしてるの?」
「スキーズブラズニルを探してるニャ。ちょうど今、地下への入り口を見つけたところニャ」
ニャゴ教授の足元を見ると、床板がはがされていた。
そこには黒い扉があった。
エンチャントベンチと同じ玄黒石でコーティングされているようだった。
扉には魔法で文字が書かれている。
―探求者よ 求めよさらば与えられん―
扉の周囲も玄黒石でコーティングされている。
床下にこんな物が隠されていることはティララはまったく気がつかなかった。
「本棚の下に隠してあったニャ。怪しいだろ?」
そう言うニャゴ教授の後ろには本の抜かれた本棚と、積み重なった古い本があった。
「開けるだけ開けてみるニャ」
玄黒石の扉に、ニャゴ教授は金色の鍵を刺した。ズブリと扉の中に鍵が埋まる。しかし、その鍵はペッと吐き出されてしまった。
「う、解放の鍵が使えないニョか。なら力業ニャ!!」
黒い扉に解放の鍵を置き、トロールの鎚を置いた。
そして、『悪魔の坩堝』で作った破壊の魔薬をたらりと垂らす。最後に魔法陣を描いた。
「ぶち壊せ!!」
すると、玄黒石の扉はカパリと割れた。そして、ぽっかりと四角い穴が開いた。中に階段が続いている。
「これは、ぜったい、なにかありそう……」
ゴクリとティララは息を呑んだ。
「行ってみるニャ?」
「もちろん!」
ティララの即答に、ニャゴ教授は満足げに頷いた。
ニャゴ教授はフェニックスの羽根の入ったランタンを持った。
ルゥはティララの肩に乗り、眼光を鋭くして辺りを警戒している。
ルゥの額の宝石がピンクに光り輝き、ティララの足元を照らした。
ふたりと一匹は、静々と穴の中に踏み出した。
コン、とティララの靴が鳴る。
ティララが踏んだ階段が小さく光る。
階段に生えていた苔(こけ)が潰され光るのだ。
ニャゴ教授とティララの足跡がポツポツと光って残っていく。
階段はズンズンズンズン下がって行く。
しかも、クネクネと曲がっている。一本道だから迷う心配はないが、それでも下に行くほどに、不安になる。
なぜか気温が上がってきて、ティララは汗を拭った。
カンカンと賑やかな音も聞こえてくる。出口らしきものが光っている。
ニャゴ教授は恐る恐る出口の先をのぞき込んだ。
「……失敗だニャ。コブリンの坑道だニャ! 奴らは坑道に迷い込んだものを許さないニャ! 面倒なことになる前に引き返すニャ!」
ニャゴ教授がそう言ってティララの背を押した瞬間。
「誰だ!!」
ワッとコブリンたちが声を上げた。
コブリンひとりひとりは小さく無力だが、集団になると恐ろしい。
チームワークで、侵入者を迷路のような坑道に追いやって、永遠に戻れないようにしてしまうのだ。
「ティララ、逃げろ!!」
ニャゴ教授は慌ててティララを守るように立ちはだかった。ルゥも毛を逆立てる。
「ティララ? 姫様?」
「姫様?」
コブリンたちがザワついた。
「わたし、ティララよ」
ティララがひょこりとニャゴ教授の背中から顔を出せば、コブリンたちが動揺した。
「姫様、かお、しってる?」
「知らない、長老、呼んでくる」
「姫様はいい人、コブリン、きたなくないっていった人」
「姫様はいい人、長老の金づち、持ってる」
ティララはルゥをヨシヨシと撫でた。
「だいじょぶよ、ルゥ」
ティララはニャゴ教授の前に出た。
「はじめまして。ティララです。このこはカーバングルのルゥ。ちょうろうさまからもらったミラクルストーンからうまれたの」
「カーバングル! カーバングル!」
「ミラクルストーン!! 生まれたの!?」
「そして、こちらはだいれんきんじゅつしのニャゴきょうじゅ」
ティララの紹介にコブリンたちはスンとなる。
「ケット・シーの大錬金術師?」
「きいたことない」
「きいたことない」
「うるさい!! オレが名乗ったわけじゃないニャ!! こいつが勝手に言ってるだけニャ!!」
ニャゴ教授は耳まで真っ赤にして否定する。
あれ? 教授はまだ大錬金術師じゃなかったの?
スラピと一緒で今から変わる設定が表示されてたのかな?
でも、どっちでも同じよね?
結果、大錬金術師になるんだから。
ティララがぼんやりと考えていると、サバトであった長老がやってきた。
「姫様、こんなところでどうしたのじゃ?」
「あのね、くろいとびらをあけたらここにつながってたの」
長老はヒゲをさすりながら、ティララに尋ねた。
「なにを探しに来たんじゃね?」
「スキーズブラズニルってしってる?」
ゴブリンたちはザワついた。
「伝説の帆船か……」
長老はゴクリと息を呑む。
「宝物庫の鍵は持ってるのか?」
ティララは、鍵束を見せた。
「この鍵の持ち主は姫様か?」
「うん、パパがくれた」
「そうか。ワシのやった金づちは持ってるな?」
「うん」
「では、付いてこい」
長老は坑道の先にティララたちを誘った。
大きな洞窟にたくさんの横穴が掘られている。
松明(たいまつ)のせいで坑道は赤々と光り、熱を帯びていた。
たくさんのコブリンたちが、土にまみれ土を掘っている。
古代の遺物や、宝石、魔宝石を掘り出しているのだ。
長老は木の扉の前にティララを案内した。小さな鍵穴が付いている。
「鍵を挿しなされ」
長老に促され、ティララは迷い、使いどころのわからなかった小さな銀の鍵を挿した。軽やかにカチャリと回る。
磨いておいて良かった……。こんなふうに使うときが来るなんて想像もしてなかった。
両開きの扉が、ティララを向かい入れるように自然に開いた。またその先に階段が現れた。
「この先にはずいぶん昔の魔王様の宝物が眠っていると伝えられている。ワシたちも見たことはない。この階段を下ると突き当たりに大きな岩が現れるそうじゃ。何度か鍵を持った者が現れたが、誰もその先へ行けなんだ。しかし、アンタならきっと進める。オリハルコンの金づちを持つアンタなら」
長老はティララを見て笑った。
ティララは長老に手を差し出した。
「ちょうろうさま、あくしゅして? ちょうろうさまのちからをわけてもらったら、きっとうまくいくきがするの」
ティララの言葉に長老はキョトンとして、破顔した。
そして、パンパンと自分のズボンで手の汚れを叩いた。しかし、爪にはまだ泥が詰まっている。
ティララはギュッとその手を握りしめた。
「姫様、もし、万が一、迷ったら、ワシたちコブリンを呼びなされ。必ず助けに行きますから」
「うん、ありがと!」
ティララはコブリンたちに手を振って、階段を下り始めた。
ニャゴ教授はそれを見て、ガリガリと頭をかく。
「ティララはすごいニャ」
「なにが?」
「コブリンをたらし込むなんニャンて」
「そんなことないよ。コブリンがやさしいんだよ」
ティララはクスクスと笑う。
「たしかにコブリンは味方に情が厚い種族ニャ。だけど、易々と味方にはならないニャ」
いつも土まみれで汚い格好をした小人コブリンは、格下に見られがちだ。しかも、財宝集めが趣味の強欲だと思われている。
頑固で気難しいコブリンと仲よくなろうとは誰も思わず、仕事以上の関わり避けるのが普通なのだ。
「……そこも含めて天才ニャ」
ボソリと呟いたニャゴ教授の声はティララには届かなかった。
ティララは、ルゥの額の光を頼りに先へ先へと下りて行っている。
ニャゴ教授は慌ててティララを追いかけた。