冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~

43 銀の紙


あれから、毎日『魔道具の墓場』でふたりは研究を続けていた。
錬金術の秘蔵本を読みあさり、伝説について調べた。

夜になるとベレトが様子を見に来る。
そっと温かい食事を扉の外においていってくれるのだ。
それもきちんとルゥを含めたふたりと一匹分。

ティララはそれをありがたく受け取った。
エヴァンは反対しているが、魔王城全員が反対しているわけではないことが、勇気をくれる。

銀の紙が、間違いなくスキーズブラズニルだということはわかった。
ティララの書庫の古い文献に記述があったのだ。
それには、銀の紙でできていることがハッキリと記されていた。
そして、材料までも書かれていた。

 また、『明らかのルーペ』のおかげで、銀の紙についていた目に見えない傷を探しだすことができた。

 あとはその傷を治せばいい。のだが。

「文献には『淑女のコルセット』、『天女の羽衣』が必要だと描いてあるニャ……。そんなもの簡単には手に入らニャいニャ」

「あるよ。もってくるね!」

 ティララは答えた。ドレスのいっぱい詰まった宝物庫の中にあったはずだ。
 鍵を貰ったときはびっくりしたけど、おかげですごく助かった!

 ティララは急ぎ、必要な素材を集める。
 宝物庫の鍵はティララの物だ。
 中身もすべてティララの物だと言われている。
 自由に使うことができるのだ。

 ニャゴ教授は一瞬呆然とした。

「さすが王女だニャ……。持っていたとしても錬金術の素材として簡単に使おうと思わないニャ……」

 ニャゴ教授は気を取り直して、床に目を向けた。
 大仕事になりそうだった。
 木の床に魔法陣を描き、剥がせそうなところはすべて剥がす。
 すると、床一面に黒玄石が広がっていた。

「とんだ酔狂者がいたものニャ……」

 ゴクリとニャゴ教授は息を呑む。
 ポニョンと肉球を合わせて、人型となる。
 そして、自分と床全体にアルコールをまき散らす。

「ぅ、酔いそうニャ……」

 中央には『悪魔の坩堝』を据えた。
 文献を頼りに黒玄石の床へ魔法陣を描く。

「ニャゴ教授!」

 ティララは戻ってくると、入り口で自分にアルコールをかけ、ニャゴ教授の下へ走り寄った。

「『淑女のコルセット』と『天女の羽衣』です」

「あとは、オリハルコン、銀、飛行石を悪魔の坩堝に入れ、『グリンカムビの風切り羽』で混ぜ、できあがった液体をカーバングルの毛で伸ばす……ニャ」

 ティララはオリハルコンの金づちをオリハルコンのタガネで少し削ってニャゴ教授に渡す。
 銀と飛行石を坩堝に入れ、ニャゴ教授の持っていた『グリンカムビの風切り羽』でグルグルとかき混ぜた。

「錬成!!」

 ニャゴ教授が唱える。できあがった液は、水銀のように銀色だった。
 その液をカーバングルから貰った毛を使って、傷に塗る。

 すると、銀の液は銀の紙に吸い込まれ、綺麗に修復された。

「成功ニャ!」

「やった!」

 ふたりは手を合わす。

 しかし、修復されたはずの銀の紙は銀の紙のままだった。帆船になる様子はない。

「「……」」

 ふたりは見つめ合う。

「修復するだけじゃダメと言うことだニャ?」

「みたい……」

 ティララはションボリとした。せっかくここまできたのだ。
 あと一歩なのに、その一歩がわからない。

 すでに今日は約束の日だった。夜中の十二時までに魔王城へスキーズブラズニルを届けなければならない。
 あと、残すところ三時間を切っていた。

 ふたりは焦り、困り果てていた。このままでは、エヴァンの許しを得ることはできない。
 ティララは錬金術を学ぶことができなくなり、ニャゴ教授に会えなくなってしまう。
 そして、スキーズブラズニルは錬金術師アクシオンの手に渡り、ティララは最悪死に至る。
 
 ティララは立ち上がった。

「きょうじゅ! もういちどいずみにいってみない? なにかわかるかも!」

「そうだニャ」

 ふたりは連れだって泉へと下りて行った。

 クネクネとした階段を下りて、羽ばたきの水を湛える泉へと着いた。

 すっかり辺りは暗くなっていた。
 空を見上げれば、丸く切り取られた空に星が輝いている。満月草がユラユラと空に向かって手を伸ばしている。
 見えない月を呼び寄せているようだ。
 フェニックスのランタンとルゥだけが明るい。

 ティララは銀の紙を泉に浮かべてみる。

 特に反応はない。

 銀の紙を泉から引き上げると、頭上から世界樹の葉が落ちてきた。
 泉に葉が落ちゆらりと揺れる。そして、少しだけ浮き上がると風のって空へ巻き上がった。

 その様子を見て、ティララは懐かしく思う。

「おじいちゃんと、ささぶねつくって、かわでながしたっけ……」

 呟き思う。

 この世界には竹って生えてるのかな?

 そんな風に思い、ハタと気がついた。

 銀の紙。オリガミ。銀の船――。

 パパパとさまざまな思考が一瞬にして繋がる。
 そして、ティララは銀の紙を折り始めた。
 ルゥがティララの手元を照らした。銀の紙がテラテラと光る。

 子供の頃に教わった。オリガミの船。
 お風呂に浮かべて息を吹きかけて遊んだっけ。
 すぐに水没しちゃうのが悲しかったけど。

 帆が付いた立体のボートを思い出したのだ。

 しかし、幼い子供の手では上手に折り紙が折れない。
 折っては広げ、折っては広げをしていると、ニャゴ教授が銀の紙を奪い取った。
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