冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~
44 オリガミのふね
「やり方をオレに教えろ。折ってやるニャ」
ティララはコクリとうなすいて、ニャゴ教授に折り方を教える。
端と端をきっちり合わせ、キュッキュと折り目をしっかりつけて、ニャゴ教授は丁寧に折る。
「うん、きょうじゅ、じょうず!!」
「なんニャ? これは」
「オリガミのふね」
ティララは銀の船を泉に浮かべた。泉は夜空を反射して、まるで宇宙のようだ。
ティララはフウッと優しく息を吐きかける。
すると、銀の船は滑るように泉を進み、徐々に膨らみ、最後にボンと大きな音を立てて、立派な船に変身した。
しかし、いぶし銀の船はいわゆる帆船とは一線を画していた。
一見すると鯨のようである。
丸い瞳と口のようなものまで付いている。
船体の両サイドには丸窓がたくさん付いていた。
甲板の中央には、筒状の塔が立っている。
そして、両脇に可動式のマストが二本立っていた。
船体の両サイドにはヒレのようなもの突き出ていて、その下には飛行艇のように補助フロートが付いている。
尾っぽは扇のようになっていた。
帆船と言うよりは飛行艇である。
「伝説の帆船スキーズブラズニル……!!」
ニャゴ教授は腰を抜かしたように尻餅をついた。
驚きのあまり猫の姿に戻っている。
スキーズブラズニルの鯨のような口が大きく開き、そこからタラップが下りてくる。
ニャゴ教授とティララは顔を見合わせた。
ルゥはキュッとティララにしがみつく。
「乗るニャ!」
「うん」
タラップを上がりスキーズブラズニルに乗り込む。すると自動的にタラップが上がり、口が閉じられた。ルゥが警戒して毛を逆立てる。しかし、暗くなったのは一瞬で、すぐに明かりが付いた。
船の中は、大きな歯車やパイプなどがむき出しになっている。
興味がそそられるものはたくさんあったが、浮き立つ心を抑えてふたりはブリッジに向かった。
舵(かじ)などはない。
中央には大きな真鍮製の筒があった。
真鍮製の筒は、太いパイプで外に繋がっているようだ。
真鍮製の筒の隣には、丸いガラス玉のようなものがあり、筒とガラス玉は管で繋がっている。
バランスサイフォンに似ていた。
ガラス玉の中には大きな導きの石が転がっている。
きっと大きな『水脈導く球』なのだろう。
真鍮製の筒の下には、アルコールランプのようなものがあり、台座には舵の形をした溝が彫られていた。
「にゃごきょうじゅ……」
ティララは鍵束に付いていた舵型のチャームを教授に見せた。
「そうニャ、きっと、それニャ」
「いっしょにさしてくれる?」
ティララは怖くなってニャゴ教授を見た。
教授は頷いて、背中からティララを抱えこみ、チャームを一緒に持った。
ふたりはその溝に、さび付いた銀色の舵型チャームを挿してみた。
回転しそうな感触がして、チャームを押しながら回転させてみる。
カチリと音が鳴り、グルリと一回転。そしてピタリとはまった。
ボウとアルコールランプに青い火が付いた。
ゴウンと低い音がして、外に繋がるパイプが唸りだす。
すると真鍮製の筒から、キラキラとした水がガラス玉の中に注がれ始めた。
ガラス玉が水で満たされる。
中の導きの石が浮き上がり、行き先を問うようにチカチカと瞬(またた)いた。
「と、とりあえず……うえ、うえへ!」
ティララが言うと、スキーズブラズニルはバラバラと音を立て始めた。
プロペラが回っているのだ。ヘリコプターのように真上に向かって登っていく。
気がつけば、真っ黒の闇が満ちた空。金の満月が浮いている。
ドンドン上昇していく船に、ティララは怖くなった。
このまま宇宙まで行ってしまいそう……!
「ストップ、ニャ!」
ニャゴ教授が叫ぶ。スキーズブラズニルはその場で止まる。
ふたりは大きく息を吐いた。
「うごいた……ね」
「動いたニャ」
「なおったの?」
「治ったニャ!」
ティララはニャゴ教授に抱きついた。もふもふのお腹がもふもふして温かい。
薬草の匂いや、インクの匂いがする。一週間一緒にいたティララも同じ匂いだろう。
ニャゴ教授は、ティララの頭をガシガシと撫でた。
オーロラ色の髪がキラキラと光る。
嬉しくて嬉しくてしかたがない。
「これでずっと一緒にいられるニャ!!」
ニャゴ教授はブンブンと尻尾を振った。ティララはギュッと教授を抱きしめた。
答えるようにニャゴ教授の尾がティララを抱きしめる。
「さあ! 大魔王のクソ野郎に見せつけに行ってやるニャ!!」
ニャゴ教授が雄叫びを上げ、ルゥも雄叫びを上げた。ティララは思わず笑ってしまう。
「いきさきはパパのとこ! まおうじょうきゅうでんのうえ!」
ティララが『水脈導く珠』に告げる。
導きの石がグルリと回って、魔王城を指し示す。
そしてゆっくりとスキーズブラズニルは動き出した。
魔王城へ向かって。