冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~

46 王女の研究室


 『魔道具の墓場』は『王女の研究室』と呼ばれるようになった。
 ティララが錬金術を学ぶ部屋となったのだ。

 『魔道具の墓場』は玄黒石の秘薬が塗られた床でできており、そもそも錬金術の実験室だったのだ。
 動かせる道具はすべて出し、ニャゴ教授が大改装した。地下に繋がる扉は修復され、『探求者の扉』と名付けられた。

 聖剣の刺さった岩は動かせないままだったが、それ以外の木の床板はすべて剥いだ。
 広々とした床全体がエンチャントベンチとして使えるようになり、たくさんあった道具たちは整然と壁に収納された。
 おかげで大きな魔法陣を描くことができるようになった。
 大型の魔道具を作り出すことも可能だ。

 エヴァンが雷を落した屋根は、水晶張りのドームに作り替えた。全体に強固な保護魔法もかけた。

 スキーズブラズニルは、ティララとニャゴ教授のものとなった。
 舵のチャームが鍵がわりだったようだ。
 鍵を入れたのがふたりだったため、ほかの者では動かすことができないのだ。

 これで、錬金術師アクシオンとの結婚はなくなった!! 心配事が一つ消えた! やったぁ!!

 ひとり喜ぶティララである。

 ティララは『魔道具の墓場』のドアを開けた。ティララの肩には、いつもどおりルゥが乗っている。

「えーっと、『ひだまりのランチョンマット』どこだったけ」

 ティララは魔道具の一つを探しに来たのだ。『陽だまりのランチョンマット』は、ランチョンマットの上の物をずっと温め続けてくれる保温魔道具だ。

 ルゥはティララの肩からスルリと下りて、ランチョンマット探しに行った。

(お主! いいかげん、無視するのを止めよ!! 我(わ)が輩(はい)を抜け!!)

 岩に刺さった聖剣が、懲りずにティララを呼び止める。

(あの猫から聞いてわかったであろう? 我が輩は聖剣なり!!)

「ちがうひとにぬいてもらってよ。にゃごきょうじゅにたのめば?」

 ティララはアイテムを探しながら雑に答える。
 偉そうな話し方の聖剣にはうんざりしているのだ。
 人にものを頼む態度ではない。

(我が輩は持ち主を選ぶのである!!)

「どうかんがえても、ごさいのおんなのこなんて、えらぶのどうかしてるよ?」

(年齢や性別で差別など不合理なことせぬ。お主は我が輩と同じ匂いを持っている!)

 聖剣の言葉にティララはギクリと動きを止めた。

 聖剣には私が未来聖剣になることがわかってるのかな……。
 私の未来、変わらないのかな?

 ティララはキュッと目を瞑り、ブンブンと頭を振った。

 違う! そんなことない!!
 スキーズブラズニルは、まだ魔王城にある。
 錬金術師アクシオンに渡したりしない。
 未来は絶対に変わるもん!! 変えてみせるもん!!

 紫の瞳の奥が赤く光る。天窓から振ってくる夕焼けがティララを幻想的に照らした。
 聖剣はティララを見て、その美しさにゾクリとし、自分の持ち主だと確信する。

(お主こそ勇者じゃ!! 我が輩とともにこい! さすれば世界をくれてやる!)

 まるで魔王のような言いようである。

「あなた、ここどこかわかってる?」

(? 魔王城の『魔道具の墓場』じゃろう? 魔族め、我が輩をこんなところに閉じ込めおって!! 誰も我が輩を抜きにこないではないか! ぜったいに許さぬ!)

「ふーん? わかってたんだ? でも、たちばはわかってなさそうね?」

(立場? 我が輩は神族・魔族・人族すべてのものたちが喉から手が出るほど欲しがる聖剣である!! 我が輩を手にした者は、世界を手中に収めるのじゃ! さあ! 崇め奉れ!!)

 どこまでも偉そうな聖剣である。

「わたしはまおうのむすめ、おうじょよ」

(それがどうした)

「だ・か・ら! だーいすきなパパをぜーったいたおしたりしませんから!!」

(っあ! すまぬ!! 魔王退治ではなくても良い! 我が輩はここにいるのはもう飽き飽きなのじゃ! ドラゴン退治とか、賢者の石を探しに行くか? ほら、お主も世界を知りたかろう? 我が輩がいれば安全快適な旅じゃ!!)

 ジトーッとティララは聖剣を見た。

 世界を手に入れられる聖剣なんて持ってたら、絶対狙われるに決まってる。
 安全とはほど遠い旅になるじゃない。
 青い血がバレないために、切り傷一つ付けられるわけにはいかないんだから。

 カーバングルの守護もエヴァンの魔力には敵わなかった。いくらルゥが守ってくれるからといっても、わざわざ危険な道を選ぶことはない。

「せかいはしりたいけど、あなたはぜったいつれてかない!」

(すまぬ、すまぬ。お主だけなのじゃ。我が輩を連れ出せるのは。お主だけなのじゃ、我が輩を正しく使えるのは! 頼む、我が輩を抜いてくれ!)

 ティララは聖剣に向かってイーッとした。

「もうしらない!」

 ティララはそういうと、聖剣に背を向けた。

(すまぬ! なぁ! ゆるせ!)

「ママー、これじゃない?」

 ルゥが丸まったランチョンマットを持ってきた。ひまわりのように黄色いランチョマットはホンワリと温かい。

「ルゥありがと! いいこ、いいこ!」

 ティララはルウの頭を撫でながら『女王の研究室』のドアを閉めた。カチャリと冷たく鍵が閉まる音が響く。

(お主、待て! 許せ、すまぬ! なんでもお主のいうこと聞こう。王女!! 探求者よ! 運命を切り開く者よ! お主しか我が輩を連れてゆけぬのだー!)

 ドアの向こうでは聖剣が叫び続けていたが、ティララには届かなかった。


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