冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~

9 誕生日のプレゼントは


 ティララの部屋はエヴァンと一緒だ。私室の奥に寝室があり、ひとつのベッドで一緒に眠る。

 朝、ティララとエヴァンは、ベレトと三人で朝食を取る。
 ベレトは日の光に弱いので、彼がいるときは厚いカーテンを引いたままだ。
 それから、エヴァンとベレトは昼食まで仮眠を取る。
 そして昼食を三人で一緒に取ると、夕食までティララとの時間を過ごす。

 ティララが来るまでは、エヴァンもベレトも夜まで寝ており、食事など取っていなかった。
 しかし、ふたりはティララの生活に極力合わせるようにしていた。

 夕食後は執務の時間となる。魔族は夜行性が多いため、エヴァンの執務は夜に行われる。
 執務質はエヴァンの私室とは別の場所にあり、エヴァンはティララにお休みのキスをしてから、執務室へと向かった。

 エヴァンが執務中の際は、ティララは部屋でお留守番だ。
 エヴァンは、ティララが宮殿の中を一人で歩くことを禁じた。
 部屋から出る場合は、エヴァンがティララを抱き、マントの中に隠して移動した。

 パパっていつも私を抱っこしてるよね。これって魔族の子育てでは当たり前なのかな?

 ティララは魔族の常識がわからない。
 しかし、エヴァンがティララを抱いて歩くのは魔族だからではなく、ただの溺愛である。

 エヴァンが執務中でいない時間は、ティララは寝ていることが多く、お留守番の時間自体は長くない。ただ、ティララはつまらないと思っていた。

 いつもエヴァンと一緒に行動していては、みんな恐れおののき、遠巻きに見る。
 しかも、マントに隠されているのだ。気さくに遊べるような友達はできそうにない。

 ひとりで出歩いちゃいけないのはどうしてなんだろう……。
 今の状況って、監禁と変わりがない気がする。
 ティララが監禁されてた理由は、パパの邪眼を避けるためじゃなかったのかな?

 ティララは考えてみたが答えはわからなかった。

 聞いてみたいけど、聞いて「常識知らず」って呆れられたら嫌だな。
 パパに嫌われたくないし。
 よくわからないけど……少しずつ自由になれるように頑張ろう!

 ティララは決意を新たにした。

 夕食の時間になり、ティララはエヴァンとともにダイニングへ向かう。
 ポヨンポヨンとスラピが後ろをついてくる。

 魔王城の中はティララがきてから明るくなった。
 常駐するスライムたちが、城の中をポヨポヨと歩き回り埃を取る。
 昼間はモンスターが少ない魔王城も、夜になれば賑やかになる。

 シルキーも掃除を楽しんでいるようだ。
 洗い場では、バンシーが歌いながら洗い物をしている。
 エヴァンと散歩をしていたとき、魔王城の川で経帷子を洗っていたバンシーを、ティララが城へスカウトしたのだ。

 魔王城には洗濯をする習慣もなかった。
 魔力の強い魔族は、身の回りのことは魔法で解決したからだ。
 そもそも、衛生観念と無関係な彼らは、日常的に清潔でいようという考えはない。
 特別なときにだけ、表向きを繕えば良いと思っているのだ。

 住み心地の良くなった魔王城。
 そのダイニングテーブルで、ティララは魔王エヴァンの膝の上にいた。
 正面にはエヴァンの腹心ベレトがいる。
 ティララの食事は主にベレトが作っていた。

 エヴァンもベレトも栄養という意味では食事を取る必要がない。
 魔物の多くは人と食べ物が違う。
 そのため、人だった過去を持つベレトが、ティララのために食事を用意してくれることになったのだ。
 そしてふたりは食べる必要がないにもかかわらず、ティララにあわせて一緒に食事を取るようになっていた。

 エヴァンはティララに肉をとりわけ、口元へ運んでやる。

「ティララ、あーん、だ」

 ティララは苦笑いしつつ、あーんと口を開ける。

 本当は自分で食べたいけど。パパ楽しそうだから。それに、断って嫌われちゃったら困るもん。

 そんなティララの思いには気付かずに、エヴァンはせっせと肉を切る。
 ベレトはその様子を少し羨ましそうに眺めていた。

「そういえば、ティララちゃんの誕生日プレゼントはどうするんですか?」

 ベレトが問う。

「誕生日のプレゼントとは」

「まさかティララちゃんが生まれた日を知らないんですか? 私は知ってますよ?」

「十三月の満月だ」

 エヴァンが即答する。

「だから、もう過ぎてるでしょ!! お祝いはどうするんですか?」

「なにを祝う?」

「生まれてきたことです」

「なぜ、生まれてきたことを祝う。生き続けていることを祝うならわかるが」

「一般的に人間の親子はそうするものです!! それに、ティララちゃんが生きていることが嬉しいなら、節目の日にお祝いするものです」

「そうか。そうだな。嬉しいから祝う」

 エヴァンは頷くと、膝上のティララの頭を撫でた。

「ティララはなにが欲しい?」

 問われてティララは考えた。
 ここへやってきて一ヶ月になろうとしている。
 衣食住には困っていない。特に欲しい物はなかった。
 しかし手に入れたいものはある。

 ティララは今がチャンスだと思った。
 闇の魔力を持たないティララが、この世界で生きていくにはそれなりの力が必要だ。

「パパ、わたし、まほうのべんきょうしたい」

 ティララが言えば、向かいに座っていたベレトがナイフとフォークを落とした。


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