契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした

1.契約結婚する!

「それなら、いっそ契約婚でもするか?」
 突然聞こえたその言葉に美冬は身体を動かすことができなかった。

 ──契約婚⁉︎

 ドラマやコミックスでは見たことがある。
 結婚前に様々な条件を決めて婚姻することだ。
 確かに事前に契約がある分、利害関係もハッキリしやすいのかもしれない。

「契約婚……?」
 お互いが条件をハッキリさせているのなら、面倒も少ないのかも。
 悪くはない、と美冬は判断したのだ。

「ま、お前には無理だろうけどな」
 そう言った彼は美冬の顔を見て、ふっと余裕のある笑みを浮かべ、立ち上がり書類を手にして美冬に背中を向けた。

(行っちゃう!)
 美冬はガシッと彼の仕立てのいいスーツを後ろから掴む。

「なんだ?」
 その顔は不機嫌そうだ。

 ぎゅっとスーツを握った美冬の手元を見ている。
 分かるわよ。高級スーツなんでしょ。シワになったって知らないわよ!

「……待って……」
 つい、引き止めてしまった。

「なに?」
 緩く髪をかきあげた彼は美冬を見る。
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