契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「本当だな。ドキドキしてるのが分かる」
「痛……い?」
「気持ちいいだけだ。美冬、頼むから煽んないでくれないか」

「煽るって?」
 槙野は苦笑する。

「お前にそんなこと出来るわけないか。怖いなら手を繋いでろ」
 そう言って、槙野が手を差し出すので、美冬は言われたままその手に指を絡めた。

 その絡められた指を見て、槙野の口元が微笑む。
 その指をゆっくりと口元に持っていった槙野は美冬の目をその肉食獣のような瞳で真っ直ぐ見つめながら口付けたのだ。

 指に槙野の唇の感触を感じて、そんな些細なことにも美冬はドキドキしてしまう。

 槙野はまだスーツのジャケットを脱いだだけで、ベストも着たままだし、ネクタイも付けたままである。
 なのにその雰囲気はとてもセクシーなのだ。

「もう、逃げられると思うなよ?」

 ずきっとしたのが、胸だったのか、身体の中心だったのか、美冬には分からない。

 けれど、その仕草にさらに頬がカッと熱くなってしまったのは間違いはなかった。
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