契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 美冬の胸元でニッと笑った槙野の目が真っ直ぐに美冬を射抜いて、その口元がぺろっと軽く自分の唇を舐める。

  そんな槙野の仕草に美冬はどくんと大きく心臓が跳ねたのを感じたのだ。

「本当に感じまくったら、そんな話す余裕なんてねぇぞ」
「それって……どういう……」
「そうなりたい?」

 美冬は完全に肉食獣にロックオンされた子うさぎのような気分で、蛇に睨まれた蛙も同然なのだった。

 話す余裕がないってどういうことなの?
 美冬は涙目になって、首を横に振るので精一杯だ。

 くっ……と声を漏らした槙野が美冬の胸元にうつ伏せて肩を揺らしている。
 か、からかわれたっ!!

「もうっ! からかったのね」
「肩の力が抜けただろうが。たくさん感じればいい。そうさせたいし、俺は美冬としかしないし美冬も俺としかしないんだ」

 慣れているのかもしれないけれど、槙野はさっきから自分に正直なことしか言っていない。
 槙野には嘘はないのだ。

 だから、美冬も正直に伝えてみた。
「あのね……怖いの。初めてだから、とても怖い」
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