契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 お腹の辺りに先程美冬が手で触れて確認した、槙野の屹立したものがあったけれど、全身で抱かれるようにされて、包み込むその感じが気持ちよくて、美冬は槙野に抱かれたまま眠ってしまったのだった。

◇◇◇

 自分の腕の中で寝てしまった美冬を見て、槙野は嬉しかったのだけれど、ため息をついた。
 ついさっきまで奪うつもりだった。

 最後までするつもりだったのだ。
 なのに、できなかった。しなかったのだ。
 こんなことは今までないことだ。

 美冬も感じていたし、あのまま強引にでもできたはずなのだ。
 なのに槙野はあえてしなかった。

 常日頃の槙野ならありえない事だが、涙を零す美冬を見たら、守らなくては、大事にしなくては、と思ったのだ。

『大事だよ。大事過ぎて触れるのも怖い。嫌われたらどうしようかとそんなことばかり考えてしまって。こんな風に思うことは今までなかったな』

 親友の言葉が今になって胸に響く。
 あの時はよく分からなかった。好き同士ならなんとかなるのだろうし、さっさと結ばれてしまえばいいのに、と思っていた。

 当時親友は彼女のことを溺愛していたのである。
 もちろん今もその溺愛は続いているのだが。
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