契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 あんなに溺愛しているのによく我慢できるな、と思ったものだったが、今なら分かる。

 怖がっている彼女に無理強いすることなんて、できない。

「なのにお前は煽り倒すし」
 槙野は可愛らしい美冬の鼻をつつく。

 シャツをまだ半分脱いだままの槙野はシャワーも浴びていない。
 シャワーを浴びるか、と身体を起こそうとしたら、ぎゅうっと美冬に抱きつかれた。

 抱きついてくる美冬を槙野は見る。
 泣かれるなんて、思わなかった。

 そしていつもなら女性が泣いたくらいでは動揺などしない槙野がひどく動揺したのだ。

 そもそも契約婚なんだから、と拒否するかと思えば、美冬は初めてのくせに抵抗なんか今さらしないと潔さを見せる。

「どれだけだって好きになるだろ……」
 槙野は潔い人物が好きだ。
 真実こそがいちばん強いから。

 隠し事などしてもいずれ露見する。その時に失うもののほうが大きいと、槙野はいろんなことを見てきて知っている。

 強くさえあれば、自分を存分に発揮できる。
 だから、槙野は契約であっても結婚のことは隠すつもりはなかったし、美冬のことも大事にするつもりだ。
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