契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
(本当に悪い人じゃないのよね)
 けれど、事情があると槙野も言っていたのだ。

 あの槙野が結婚しなくてはならないとは余程の事情なのだと思う。

 それでも美冬には槙野を嫌いになることなんてできなかった。

だって、ずっと抱きしめていてくれた。
 その胸の中は安心するものでしかなかったのだから。

 その時、ふわんと香ってきたのがコーヒーの香りだ。
 美冬はベッドから降りてリビングダイニングに向かう。そっとドアを開けた。

 パーカーにスウェットの槙野がキッチンで朝食を準備している。

「おはよ……」
「おう、おはよう。よく寝てたな」
「ごめんなさい、準備手伝わなくて」

「無理すんな。疲れてたんだろ。スクランブルエッグでもいいか?」
 もちろんである。作ってもらって文句など言えるはずもない。

「手伝うよ」
「悪いな、じゃあパンを準備してもらっていいか?」

 キッチンはかなり広くて、槙野と美冬が横に並んでも作業できるくらいの広さがある。
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