契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 それでも美冬は腹は立たなかった。
 そうだろうな、と納得するだけだ。

「美冬」
「んー?」

──やだ、ベーコンすごく美味しいし、スクランブルエッグとかふわとろなんだけど。

「美味しいもの食べてる時は本当に幸せそうだなお前は」
「え? だって幸せだもの」
「今日の予定。指輪買いに行って、うちの実家に帰りに寄ろう」

「じゃあ家に帰るわ」
「え?」
 槙野は眉を(ひそ)める。

「だって、昨日のスーツのままだから着替えたいのよ」
「ああ……そうか。そうだな。車で送る」

「どうしたの?」
「いや、帰るって美冬が言うから」
「それは帰るけど。今日も帰るわよ」

「明日は日曜だろ」
「うん。でもデパートの催事があるの。別会場でのお得意様向けの催事だから少しだけ顔を出すつもり」
 美冬はミルヴェイユの社長でもあるのだから。
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