契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした

10.首輪をつけてやるっ!

 着替えてきた美冬を見て車に乗って待っていた槙野が目を軽く見開いた。

 オフホワイトに黒のサテンで飾られた清楚なイメージのワンピースにパールのネックレスを合わせていたのだ。

 それはまさしく清楚なお嬢様風で、婚約者の家に挨拶に行くお手本のような服装だった。

「本当に押さえてくるよな、美冬は……」
「だって指輪を見にジュエリーショップに行って、その後は槙野さんのお家でしょう?」

「清楚で好印象。さすがだな」
 そう褒めてエンジンをかける槙野を美冬は助手席からじっと見つめた。

 視線に気づいた槙野が尋ねたのは美冬が何か言いたげに見えたからだ。

「何だ? どうした?」
「祐輔って、そうやってすぐ褒めてくれるのね。それってすごく嬉しい。厳しくてよく見ている祐輔だからこそなんか褒められるとすごく価値がある気がするわ。きっと会社でもそうだと思う」

 槙野のことをそんな風に評する人は少ない。特に女性では尚更そうだ。
「本当に美冬は得難いよ」

 恋愛感情だけではないから冷静に槙野のことを見ることができるのだろうか。
 甘いだけの気持ちではないから。
< 126 / 325 >

この作品をシェア

pagetop