契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
──夢中にさせたい。俺だけしか目に入らなくて、溺れるように好きにさせたい。

 自分はこんなに愛おしい気持ちにもうさせられているのだから。

 ◇◇◇

 ジュエリーショップでは槙野は予約をしておいてくれたようで、店に入る際に名乗ると奥の個室に案内される。

 個室に入るとクラシカルな雰囲気の内装にアンティークで統一された家具の置かれた部屋が用意されていた。

「この度はおめでとうございます」
と美冬は店員から笑顔で小さなブーケを渡される。

 ありがとうございます、と美冬も笑顔で受け取った。

 清楚でお人形のように可愛らしい美冬に微笑まれて店員もつい頬を赤らめる。
 女性店員だったのが幸いと言わざるを得ない。

「本日はエンゲージリングをお探しとお伺いしております」
「いくつか希望を言っておいたけれど」
「ご準備させていただいております」

 店員と槙野とのやり取りはスムーズで、時間のない人がいかに時間を無駄にしないかというのを美冬は目の当たりにした気がした。
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