契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 何人かはメモもしてくれているようだったし、時折深く頷いている様子も見えたので、感触は悪くないのかなと思った。

 美冬は一時間ほどでプレゼンを終え、
「何かご質問はありますか?」
と締めに入る。

 目つきの鋭い若い男性が手を挙げた。
「お願いします」
 美冬が彼の方を見ると彼は腕を組んだ。

 美冬はどきんとする。
 それは別に彼が顔立ちが整っているどうのこうのではなくて、腕を組む、という行為自体が美冬達に対していい印象がない、と言う事だからだ。

「シナジー効果が見えない」
「はい?」

 案の定硬くて冷たい声だ。
 美冬は柔らかく笑顔を向けたが、正直怖い。彼の迫力に圧されそうで、それを一生懸命鼓舞しながら笑顔を作った。

「弊社が御社と手を結ぶに当たっての相乗効果だ」
「それは企業価値が上がれば……」
「曖昧なんだな。その企業価値を上げる具体的な方法論を聞きたい」

 そこで、たった一人参加していた女性が手を挙げた。
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