契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 端の方のテーブルに連れていかれた美冬は飲み物を取りに行こうと席を立つと、テーブルの上を杉村にぺしぺしされる。

「社長はここにお掛けください」
「はい……」

 腰を上げかけた美冬は、席に座り直した。
 石丸が美冬に向かってにっこりと笑うけれど、笑顔の奥の目が怒っていて怖い。

 美冬の代わりに席を立った石丸が飲み物を持ってくる。
 トン、と美冬の目の前にアイスティーが置かれた。
「お砂糖入りだから」

 さすがに長い付き合いだけのことはある。石丸は美冬のことをよく分かっていた。
「で? どういうこと?」
と二人に迫られる。

「だから結婚します……て」
「そんな相手いなかったじゃん」
「どこにいるんです⁉︎」

 ──二人して何なの。

 しかし不審に思っても不思議はないくらい美冬には恋人の気配というものがなかったのだ。

「まあ、何か様子がおかしいとは思っていましたけどね」
 ため息まじりにそう言うのは杉村だ。
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