契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 その場に残された美冬は呆然として、頬を赤くして立ち尽くしてしまった。

 ──薬指……撫でられたわ。理由?理由って……。

 それは片倉に言われたお互いがお互いでなくてはいけない理由、なのだろう。
(信頼……してもいいって思ってくれてるんだ)

 美冬は槙野が撫でていった薬指をきゅっと胸に抱きしめる。
 そういうの……ズルいよ。

 ◇◇◇

 その数日後のことである。
『ミルヴェイユ』の本店の入ったビルの中にある社長室で美冬はパソコン画面を睨みつけていた。

 社長室は美冬が引き継いだ時に大幅にリフォームしている。

 祖父がいたときは、昔ながらの応接室という感じだったが、それをモダンでシンプルにデザインし直してもらったのだ。

 社長室に入ると全面大きなはめ殺しの窓が目に飛び込んでくる。

 窓からは街道の並木を見下ろすことが出来た。その窓の前には黒のデスクとパソコンチェア。

 パーテーションの奥は簡易給湯があり、部屋の所々には観葉植物がある
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