契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 デスクの前にいた美冬にドアを開けた秘書が声を掛けてくる。

「お客様なのですけれど……」
「あれ? アポ入ってた?」
「いいえ。アポなしなんだけど、と仰っていて」

「どなたかしら?」
「それが、グローバル・キャピタル・パートナーズの槙野様とおっしゃる方なんですけど」

 美冬の「帰して」という声と、杉村の「お通しして」という声が重なった。
 秘書が目を丸くしている。

「わざわざ社名を名乗って来られているんですから、お返しするわけにはいきませんよね」

 杉村のその一言に言葉を返すことができなかった美冬だった。

「急にすまないな」
 そんな風に言って部屋に入ってきた槙野に秘書の視線が釘付けになっている。

 ──本当に目立つったら……。

 杉村が槙野に向かって頭を下げた。
「先日、秘書の方とお話させて頂きました。お繋ぎいただいて、ありがとうございます」
「ああ、打合せできたのならよかった」

「大変助かりました。では失礼します」
 そう言って、くるりと振り返り部屋を出て行こうとした杉村がドアの前で足を止める。
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