契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 気づいたら美冬はもたれかかるように槙野の背に手を回していた。

「美冬……」
 耳元でささやかれる甘くて熱い囁きに美冬はつい、きゅうっと槙野につかまってしまう。

「は……」
 つい漏れてしまった吐息に耳元でくすりと笑われた。

「声、出すなって」
「出てない……息が、できないんだもの」

「もう一回するか?」
 甘く熱く(そそのか)すように耳元で囁かれて、美冬は身体の力が抜けそうだ。

「だめ……」
「なんでだ? 気持ち良さそうなのに?」
「仕事できなくなりそう」

 美冬をぎゅっと抱きしめた槙野からはーっというため息が聞こえてきた。
「早く俺のものになれよ」

 何を言ってるのだろう。
 契約書に署名した時点で槙野のものになってしまっている気がするのに。

「キスしに来たの?」
 美冬がそう尋ねると目の前の槙野がくすっと笑って美冬の鼻を軽く指でつまむ。

「そうと言いたいがな、違う。仕事をしに来たんだよ」
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