契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 そういうことで悔しい思いをしているのか、そう言った槙野は眉間にシワを寄せていた。

 美冬はそのシワを指先で触れて人差し指と中指できゅっきゅと伸ばす。

「真面目な顔しちゃって。そんな顔しなくても大丈夫。私は社員を信じてる。でもだからこそ、守ってあげたいし、もっと頑張りたいの」

 槙野は美冬のその手を掴んだ。
「お前さぁ、俺のこと、どうしたいの?」
「どう……?」
 はーっと深い吐息が槙野から聞こえた。

 よし、この機会だ言っておこう。

「祐輔、そのため息やめてほしい」
「んぁ? ため息?」

「気づいてないの? すごく深いため息よくしているわよ。他の人が聞いたら……」

「ため息じゃない。深呼吸だ」
 え?深呼吸?
「だから、そういうところ」

 また、大きく息を吸っていて、大きく息を吐きそうなところを美冬に指摘されたからか、そっと吐いている。

 ──本当だ。深呼吸だわ。

「ごめん。本当に深呼吸だったのね」
「いや。美冬が不快なら直す。大きく息をすると落ち着くんだ」
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