契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 美冬は腕を伸ばして槙野の身体にぎゅっとしがみつく。

 槙野も美冬の身体に腕を回してしっかり抱き寄せた。

 二人の間に肘置きがあるせいで、微妙な距離なのがもどかしい。

「肘置き……邪魔だな」
 美冬はふふっと笑う。
「それ、私も思った」
 けど、そのせいで冷静になれた。

 でなければこのままキスを続けて、どうなってしまったか分からない。

「キスしに来たわけじゃなかったはずだが、それ目的も悪くない」
 そう言って美冬の唇の端を槙野は指でつついた。

 そんないたずらっぽい顔は本当に魅力的で困ってしまうんだけど!

「そうだ、お願いがある」
「ん? なに?」

「二週間くらい後のことにはなるんだが、新しくインテリジェンスビルがオープンするのを知っているか?」
 もちろん知っている。

 ミルヴェイユは入らないけれど、いくつもの高級ブランドが出店すると話題になっている大きなビルだ。
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