契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 美冬は先程は槙野に咎めたため息を一人でこっそりとしていた。

(それは、そうよね。祐輔には立場もあるし、人前にパートナーを連れて出なくてはいけないこともある)

 そういった意味ではミルヴェイユの代表でもあり、アイコンでもある美冬はそれなりに見映えがするし、都合がいいかもしれない。

 槙野の事情は未だに聞くことができていないのだけれど、そのようなものもあるのかもと美冬は考えたのだった。適齢期にそれなりのパートナーが必要だという。

 その後、槙野は美冬の実家にも挨拶にきてくれた。ニュースリリースも同じくらいの時期にお互いの会社から発表される。

 大きなニュースにはならなかったけれど、経済界の一部や、アパレル業界内では少し話題になったようだった。

 ◇◇◇

「品があっていいネクタイですこと」

 ミルヴェイユとの業務提携を希望しているエス・ケイ・アールの木崎は槙野を流し見てさらりとそう言った。
< 178 / 325 >

この作品をシェア

pagetop