契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 美冬はあの指輪を買いに行った日、三本ほどのネクタイを選んで槙野にプレゼントしてくれており、今日はそのうちの一本を締めてきていた。

「ありがとうございます。婚約者が選んだので」
「そうでしたわね、ミルヴェイユの椿さん。ニュースリリース拝見しましたわ。おめでとうございます」

 木崎が目を細め、にこりと笑う。
 目の奥が笑っていないのが非常に怖いところだ。

「木崎さんからお話をいただいた時俺は彼女にアプローチ中でした。ご希望に添えなくて申し訳ないが」

 さらりと槙野が言うと木崎から密やかに声が返ってくる。
「まだ、ご結婚はされていないのよね?」

 ──怖い!怖すぎるんだが!まさか、まだ諦めていないなんてことは……。

「すぐしますけどね」
 背中がぞくっとすると共にまだ池森に思い知らせていなかったと思い出した槙野だった。

 槙野は素知らぬ顔で資料を取り出す。
「では、今回の件はビジネスマッチングとしてコンサルティングの形を取らせてもらうつもりでいますが、いいですか?」

「ええ、構いません」
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