契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「すっごい、お前アホかみたいな目で見てたわね」
「そうでしょうか? そんなことはないと思いますよ」

 けれど、美冬はきっとダメだったんだろうと落ち込んでいた。
『次があれば』なんてシビアすぎる。

 なでなで、と杉村が美冬の頭を撫でた。
「美冬さんは頑張りましたよ。元気出して。美味しいものごちそうしますから」

 美冬がきょろん、と上目遣いで杉村を見る。その可愛さにさすがの杉村も怯んだ。

「元町ヴィラ……」
 可愛い口からこぼれ出たおねだりだ。

 それは予約の取れないことで有名なレストランの名前である。
「却下です。とり政ですね」
 可愛らしい美冬に惑わされそうなので、杉村はさっと目を逸らして早口に伝えた。

「えー!? 頑張ったって言ったじゃーん!」
「今から予約なんて、取れないでしょう? それはコンペ成功の時まで取っておきましょうね」
 そう言ってにっこり微笑まれたら、美冬に返す言葉はなかった。


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