契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 美冬はとんでもなく緊張していた。会社の今後の業績を左右するような話だ。

 会議室を入った奥に座っている木崎社長はいつ見ても迫力がある。
 今日も一流と分かるブランド品のスーツに身を固め、ぴっちりと施した化粧が華やかな顔立ちに似合っていた。

 女性らしい華やかな装いでありながら綺麗に手入れされたショートボブがいかにも仕事の出来る女性という雰囲気を底上げしている。

「改めて、木崎と申します」
 木崎はにっこりと美冬に微笑みかける。

「ミルヴェイユの椿美冬です」
「椿さん、とても可愛い方ね」

「木崎社長もいつ見てもとても素敵です。シャネルのスーツ、お好きなんですね」

「ええ。いいものはいつも気持ちを上げてくれるもの。ふさわしい自分でいなければ、と背筋を伸ばしたくなるわ」

「分かります」
 つい、美冬はこくこくと頷いてしまう。
「ミルヴェイユもそういうブランドですものね」
「そうでありたい、と思います」

 ふっと木崎は目を細める。
「けれど、ブランドが残っていなくては意味がないのよ」
 美冬はぞくんとした。
< 181 / 325 >

この作品をシェア

pagetop