契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 ふにゃーと力が抜けてソファにもたれている美冬だ。その腕の間に抱えられているのは、美冬が抱きかかえるのにちょうどぴったりの大きさのクマのぬいぐるみだ。

 ふわふわとした毛並みのそれはひどく抱き心地が良さそうではある。

「可愛いクマだな」
 美冬の隣に座った槙野がつん、とそのクマをつつく。美冬は槙野の肩に頭をもたれさせた。

「子供の頃におじいちゃんがくれたの。普段はソファに置いておくだけなんだけど、時折ぎゅってしたくなるのよね。今日はなんかそんな気分」

 環境が変わることへの不安のせいだろうと槙野は思うが、それを口にすることはなかった。

 ただ、こんな時に美冬が自分を頼ってくれるような関係性になれたらいいのに、と強く思って肩にもたれている美冬の頭をきゅっと抱き寄せたのだ。

「デリバリーでも頼むか? 何がいい? ピザ? 鮨?」
「ピザとか最近食べてない! ピザがいい!」

 散々はしゃいで二人でピザを食べ、引っ越し祝いだと槙野はストックしていた、いいワインを開けた。

 疲れもある、お腹もいっぱいになりいい具合にアルコールが回っていて、お風呂から出てきたときには美冬の目は半分閉じていた。
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