契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「お先……」
「水飲んどけよ?」
「うん……」

 嫌な予感はしたが、槙野が風呂から上がったときにはソファでクマを抱いた美冬は舟を漕いでなんならもう沖まで出てしまっている。

 槙野はさすがにため息が出た。
「まあな、そうかなとは思ったけどな」

 美冬の腕からそっとクマを外し、槙野は美冬を抱き上げた。人肌の温もりを感じたのか、美冬がきゅうっと抱きついてくる。
 こんな風に甘えられたら、契約だったなんて忘れそうになる。

 契約婚なんて決めた理由はきっと、美冬は会社のためだったのだろうに。

 美冬は魅力的だ。時間がくればいずれ彼女を見出す男もできただろうし、彼女も自分から好きになれる人を選べたかもしれない。
 けれど、そんなこととは関係なく、もう今や槙野は美冬が欲しい。

 美冬が仕事が好きで、会社が好きなことは見ていて分かっているのだ。
 会社に行った時も、槙野の企画を見て美冬は目をキラキラさせていた。槙野の片倉に一蹴された企画さえ夢があると嬉しそうにしてくれていた。

 槙野だってあれが通らないことなど分かっていたけれどそれでも私は好き!と言う美冬が愛おしい。
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