契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 いや、今日は汗をかくようなことはしていない。

──もしかして……加齢しゅ……いや、そんな訳は……そんな訳はない……ハズ……。

 しかし、自分では分からないと言うし、槙野はそれなりに気を配っていて朝晩のシャワーは欠かさず、きちんとパフュームも使用している。
 いい匂いとか、官能的な匂いと言われたことはあるが、まだ加齢臭は大丈夫のはずだ。

 槙野がぐるぐるしていると、美冬はハッとしたような表情になった。
「ごめん! 仕事から帰ってきたところなのに。やっぱりいいわ」
「そんなことは気にしなくていい」

 美冬と仕事の話をすることは別に嫌いではない。槙野が書類を手にしようとしたら、美冬は書類を片付け始める。
「ごめん。本当にいいの。会社でやるわ」

 慌てた様子で書類を全部片付けてしまって、槙野の手の行先はなくなる。
 もういい、なんて顔をしていないくせに急にこんなことを言い出して本当にどうしたのだろうか?

 いつもなら、素直に書類を渡して、わいわいと二人で言い合えるはずなのに。
「美冬、シャワー……とか浴びてきた方がいいか?」
「そうして!」
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