契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 ──寝ぼけていたとはいえ……なにを……。

「俺のことを好きになればいいのに」
 もう寝れないと思ったから、そのまま起きてジョギングに出たあと、会社に行く準備をして、食事まで作ってしまった。

 寝室に戻ると、美冬は今度は布団をきゅうっと抱いている。
「美冬……」
 そう呼ぶと美冬はハッとしたように目を開けて、ぱちぱちっと瞬きする。

「俺は今日はちょっと早めに行かなくてはいけないから会社に出るけれど大丈夫か?」
「あ……うん。起きる」

 そう返事をして美冬は身体を起こしているが、ゆらゆらしていた。
「大丈夫か?」
 もう一度大丈夫か声を掛ける。

「うん。あ、食事は?」
「食べた。気にするな。作って置いてあるから、美冬も良かったら食べていけ」

「あのっ……祐輔、私……」
 美冬はなにか言いたげだった。

 槙野は腕時計を見る。
「悪いが美冬、急いでいる。なにか伝えたいことがあるなら、メールをくれ。都合のいい時間を連絡してくれたら折り返す」

 時間がないのも本当だけれど、今は早朝のことを咎められたら、立ち直れない。
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