契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 黙って触れてしまったことは、悪かったとは思っているのだ。

「分かったわ」
 槙野は美冬の頭にぽん、と手を触れて頬を撫でた。妙に素直な真っ直ぐな表情でこちらをみてくるのに我慢ができなくて、少しだけ躊躇って美冬の額に軽くキスをした。

「いってくる」
「いってらっしゃい」
 今度は拒否されなくて、槙野は少し安心したのだった。



 槙野は仕事のスピードが早いことには自信がある。
 午前中の仕事をさっさと終わらせて、決裁ついでに片倉のいる社長室を訪れていた。

 そういうことは結構あるのだ。
 美冬の会社のアイデア出しをしていた時アッサリと、そんなに金のかかることできるわけないだろと笑顔で切って捨てられたのもこの部屋だ。

「俺は判断力には自信がある」
 槙野は片倉に向かってキッパリとそう言った。

「知っているよ。そこをとても信頼しているんだしね」
 片倉から早く仕事に戻れというオーラを感じるが、敢えてそれを無視して、槙野は社長室の椅子に座っていた。
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