契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 信頼……している。可愛いとも思う。なんなら可愛すぎて困るくらいだ。

「まあ、当然その気持ちは伝えたわけだよな?」
「その? どの?」

「押しのけられるなんてショックすぎるくらい大好きで、調子っぱずれになるくらい大好きだということをさ」

「そんなの察しが……」
 つくだろう、と続けようとした槙野だ。

「いいか、槙野」
 真っ直ぐに槙野を見る片倉が普段見たことがないくらいに真面目な顔なのである。

「察しがつくんじゃないかと思うだろう? けど、美冬さんはお前じゃない。お前の気持ちなんて分からないと思え。伝えた方がいい」
「え?」

「押しのけられた理由を聞いて自分の気持ちを伝えるんだな。いろいろ変わると思う」
 変わると言われても槙野には分からなかった。

 ただ一つ分かっているのは、片倉が周りに政略結婚だと言われても自分の気持ちを押し通して、今は浅緋ととても幸せだということだ。

 槙野は片倉を見る。
「ま、頑張れよ」
「他人のことなら分かるのに、な」
「そういうもんだ」
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