契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 大丈夫とかではない。一刻も早く会いたくて、伝えたいことがあるのに。

 じりじりともどかしい気持ちを抱える槙野だ。断るのが困難なアポが入っていて、そこに行ってからレセプションパーティに向かっても十分間に合うはずだった。

 なのに、話好きの社長に捕まってしまった。お世話になっている人なだけに無下にもできない。

 それでも間に合う時間には先方の会社を出たはずだったのに、まさか事故とは。やむないことだし、誰かを責めることもできない。

「副社長、渋滞抜けそうです」
「慌てず可能な限り急いでくれ」
 運転している秘書はくすりと笑う。
「承知致しました」



 パールホワイトのワンピースとジャケットがとても似合っていた。
 美冬が見ているのは片倉浅緋だ。

 浅緋は片倉に寄り添って、一緒にご挨拶をして回っている。その慣れた様子にも見蕩れそうだ。

 ほとんどは片倉が対応するのだが、時折浅緋もお客様に話しかけられている。そんな時も品よく笑顔を向けて、話しているのが見えた。

 捕まりすぎじゃない?と思うと片倉が自然にそっと肩を抱いて抱き寄せて、浅緋を庇うようにしている。
 本当にお似合いのとても仲の良い夫婦なのだ。
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