契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「本当に仲がいいよね? あれで一時期は政略結婚なんて言われてたなんて思えない」

 ねっ?と美冬に首を傾げてくるのは、タキシードジャケットを着こなした、なかなかに顔立ちの整った男性だ。

「政略結婚?」
「そう。そんな風に言われてたよ」
 美冬に話しかけてきた男性はにこにこしている。悪い人ではなさそうだが、見知らぬ人である。

「え……っと、すみません、どちら様でしょう。ご挨拶していたらごめんなさい」
「いえ。初めましてです。でもうちの商品は取り扱って頂いていると思う。株式会社ソイエの代表をしています。国東(くにさき)と申します」

 そう言って彼は美冬に名刺を渡す。
 株式会社ソイエは繊維の専門商社で、確かにミルヴェイユも取引があった。

 美冬もバッグから名刺を出して渡した。
「お世話になっております」
「美冬さん! 僕、実はお祖父さんに良くして頂いているんです」

「祖父のお知り合いでしたか」
「はい。美冬さんがミルヴェイユを継がれる際に紹介してほしいとお願いしていたんですが、行いが悪かったのか、会わせるか! と笑われてしまった」

 祖父らしい。
 美冬はくすりと笑う。
< 209 / 325 >

この作品をシェア

pagetop