契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 美冬は涙が浮かんでしまったのか、指できゅっと目元を拭う仕草して、その後思いきりの笑顔になったのが見えた。

──くそっ、可愛い。なんで、泣くんだよ。
 槙野はもらい泣きしそうだ。

 けれど、美冬の見ている方まで幸せな気持ちになりそうな笑顔を見て、絶対にこの笑顔を忘れることはないだろうと槙野は確信した。
 そんな笑顔にすることが出来たのが自分だったのだと思うと、誇らしい気持ちになったからだ。

「うん。私も好き。私も大事にするね。お嫁さんにして」

 美冬は指輪を手に取って、槙野に渡す。
 槙野はそれを受け取った。

「もう、逃がさねぇからな」
「逃げないよ」
 指輪を美冬の左手薬指に付ける。

 会場は今日イチの盛り上がりを見せた。
 ちなみにこの時の写真を手持ちのスマートフォンで撮ったのは一人二人ではなくて、それをSNSにタグ付きで上げたのも、一人二人ではなかった。

 そのビルはプロポーズが成功するビルとして話題になるのは後日のことである。
 取引先も話題になることで非常に喜んだことも後日の話だ。
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