契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 槙野はその間も口元に手を当て書類を睨んで考えるような仕草をしていた。

「けど……」
「相乗効果ですか?」
「あ、いや。もっとこう思い切ったことができたら面白いのになって。悪くはないんだが、今回のコンペの意図とは外れるかもしれない」

 怖い人だと思ったけれど、その真剣な声とアドバイスに意外といい人なの?と美冬は槙野の顔をそっと見る。

「真剣だな」
「え?」
「椿さん」

 そんな風に呼ばれて槙野の方からひょいっと顔を覗きこまれた。

 先ほどまでは怖いだけだったが、今はとても澄んだその瞳にどきんとする。
 だって、今はメリットも何もない美冬の会社のことで真剣になって見てくれている。

「そうですね。いろいろ事情もあるんですけど。今まであまり経営とか考えてこなかったんだなって今回ひしひしと思います。私はミルヴェイユのお洋服が好きなので」
「へえ? どの辺が?」

「金額設定が高いってことは分かっているんです。でもちょっと特別な時に、ちょっと特別なおしゃれがしたいって、絶対にあると思うから。そんな時に気分を上げるファッションであってほしいの。それに価格に見合うだけの作りなんです」
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