契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「なるほどな」
 槙野は少し口角を上げる。そうしてテーブル越しに美冬を真っ直ぐ見た。

「事情ってのはなんだ?」
「そ……それ、言わなきゃダメですか?」

「言わなきゃダメってことはないが、事情があるなら知ってはおきたいな」

 ごくっと唾を飲んで、美冬はここまでの経緯を説明した。
 もちろん祖父の条件も。

 そして、目の前で爆笑されているのである。

「お前のじいちゃんおもしれーな! 彼氏から結婚って、どれだけお前に結婚してほしいんだよ」
 他人事だと思って……。そんなに笑う?

「お前もその条件呑んでまで、ミルヴェイユが大事か?」
 笑いを収めた槙野が切り込むように美冬を見つめる。

 槙野の鋭い眼はまるで肉食獣のようだ。
 本人もきっとそんなことは分かっていて、それも十分に意識した上で交渉に使っているのだろう。

「大事です。私、好きだもん。ミルヴェイユが好き。でも、今回のことで好きってだけでは守れないってことが分かりました。槙野さん助けてくれますか?」
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