契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 部屋を横切ってきた槙野に腕をつかまれる。
 ──べ……ベッドの向こうから三歩で来た!

「うん。俺の方で一旦確認するから。悪い、今ちょっと取り込み中で。明日朝イチで確認するから。電話も繋がらないから、至急案件は他の役員に回してくれ」

 電話を切った瞬間、美冬は真っ赤になって怒る。
「なんで自分だけバスローブ着ているのよ!」
「いや……着るだろ。全裸待機は引くだろ」

 着ていなくて怒られるなら分かるが、着ていて怒られるのは納得がいかないような気がする槙野だ。

 それでも美冬がタオル一枚、という格好で出てきたのは勇気がいったことだろうと思う。
 だからぎゅうっと美冬を抱きしめた。

「ありがとうな。さっきの俺の感じからしたらそうなるよな。すげえ嬉しい。それにすげえ興奮した」

 美冬はどきんとする。
 興奮した、なんて言われたら、美冬の方がドキドキしてしまう。

「すごくドキドキしてるの」
「してくれ」

 槙野は一瞬だけ美冬を抱き上げてベッドへと運ぶ。
 そっと降ろして、唇を重ねた。
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