契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 大事かと聞かれて、美冬は迷いなく好きだと答えた。
 それが真っ先に心に浮かんできたことだったから。

 美冬の企画書を持って立ち上がった槙野が美冬を一瞥して鼻で笑う。

「それなら、いっそ契約婚でもするか?」

 突然頭の上から聞こえてきたその言葉に美冬は身体を動かすことができなかった。

 ──契約婚!?
 ドラマやコミックスでは見たことがある。結婚前に様々な条件を決めて婚姻することだ。
 契約がある分、利害関係もハッキリしやすい。

「契約婚……?」
 それならば、祖父の条件にも当てはまるし、お互いが条件なら面倒も少ないのかも。
 悪くはない、と美冬は判断したのだ。

「ま、お前には無理だろうけどな」
 そう言った槙野は美冬の顔を見て、ふっと余裕のある笑みを浮かべ、立ち上がり書類を手にして、美冬に背中を向けた。

(行っちゃう!)
 美冬はガシッと彼の仕立てのいいスーツを後ろから掴む。

「なんだ?」
 その顔は不機嫌そうだ。
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