契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 にっこり笑っている石丸には逆らえない雰囲気があった。
「事情? そんなのがあったとか聞いていないんだけどね?」

「い……言ってなかったかなー」
「聞いてなかったよね?」

 笑顔の石丸がすごく怖い。
 お人形か二次元的に整った顔で笑ってるのに目の奥が笑っていないのは、相当に怖い。

 全ての事情を聞いた石丸は大きくため息をついた。
「会長も美冬も槙野さんも、本当に呆れた。結果オーライだったから良かったものの……」

「だから最初におじいちゃんに会わせたのよ」
 その美冬の感覚も間違っていない。

 会長である椿がダメだと言えば、それは成功することはおそらくないのだ。
 今回の件に関しては、最初に椿会長が槙野の人物を見定めていた。

 美冬も会長も槙野も三人とも勘の良さは侮れない。その三人がそれぞれにGOを出した結果がこれなのは、例え最初に事情があったにしても確かに納得の結果なのだった。

「だから結婚までの期間が妙に早かったんだな。お互いに、事情があったから」

 その通りではある。
 けれど美冬は石丸に誤解されたくはなかった。
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