契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 そんなことはここにいる全員が分かってはいることだったけれど、あえて槙野がそう言ってくれたことで、共有を図ることができたのだった。

 話し合いを終えたあと、木崎社長はガックリと肩を落としていた。自社で盗作が起きたなどとはとてもショックな出来事だろうと言うことも想像にかたくない。

 それを慰めるように綾奈が寄り添っていたのが印象的だった。

 以前から感じていたけれど、綾奈は思い込みが強かったり、感情移入が強い傾向にはあるけれど、それは人に対して思いが強いからなのではないかと美冬は思う。

 裏を返せばその人の立場に立って思いやれる人、ということだ。
 全員部屋から出たあと、槙野だけがその場に残る。

「槙野さん? どうされました?」
 つかつかと歩いてきた槙野はぎゅうっと美冬を抱きしめる。

「今は祐輔、だろ? 頑張ったな、美冬」

 その身体に包み込まれるように抱きしめられて、低い声で耳元で頑張ったな、なんて囁かれて、美冬は自分の身体が小さく震えていたことに気づく。

「うん……頑張ったよ」
 ぎゅうっと美冬は槙野の背中に手を回した。
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